SNSに「強い」弁護士・庄子茉希さん

 「【保存版】モテたくば性的同意をマスターせよ!←弁護士が解説」と題したYouTube動画。「性的同意はコミュ力の高さがそのまま現れる、令和の必修科目」「一番大事だと思うのは、ノーを受け入れること。初対面で、ちょっと今日無理とか言われたら傷つくじゃん?」──性犯罪にまつわる法律用語である「性的同意」を、身近な言葉で語っていく。弁護士としてSNS法務などを請け負いながら、自身もSNSで日常生活にまつわる法律の知識を発信している。

 宮城県仙台市で生まれ育った。法律への憧れが芽生えたのは中学生の頃。弁護士が主人公のテレビドラマ「リーガルハイ」が大流行していた。公民の教科書の巻末に日本国憲法が全文記載されているのを見つけ、何度も音読しては胸をときめかせた。

 高校は宮城第一高校に進学。ずっと勉強は得意だったが、大学進学のための受験勉強に「ハマった」。それまで何かに必死になったことがなく、目標に向かってがむしゃらに努力する経験は新鮮だった。第一志望の東京大学に一歩及ばなかったが、東北大学法学部に合格。憧れの大学に近づけたことは自信になり、やり切った達成感で満たされた。

 試験のレベルで大学を選んだものの、法律家は憧れの存在。受験勉強の勢いそのままに、気持ちはすぐに司法試験へ向かった。受験資格を得るには、法科大学院を修了するか、予備試験に合格する必要がある。大学生として、まずは予備試験合格を目指すことに。試験範囲は膨大で、憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の「基本7法」を一周するだけで1年かかった。大学2年生時は手も足も出なかったが、3年生で短答の記述試験に合格でき、ついに4年生で予備試験を通過。法務省の発表によると、2020年の合格率は4.17%。狭き門だった。

弁護士としての自分の価値

 翌年の司法試験も無事に通過し、司法修習を経て22年12月、弁護士になった。司法修習では裁判官や検察官の仕事にも魅力を感じたが、最終的には業務内容や働き方の選択肢が多い弁護士に惹かれた。

 所属先として選んだのは大手法律事務所「TMI総合法律事務所」。一流の組織で働けると夢見心地で上京した。企業法務を専門とする事務所で、世界的な検索プラットフォームや教育機関などの法務に従事。忙しく充実していたが、どこか違和感があった。企業をサポートする仕事を通して、人の役に立っているという実感が得られない。「自分の人生でやりたかったことはこれなのか」。体調を崩したことがきっかけで、1年で退所した。

 すぐに個人事務所を立ち上げた。同じ頃、インフルエンサーをしていた友人が悪質な「アンチ」に悩まされているのを見て、プラットフォーム側と仕事をしていた経験が思い出された。SNSやネットで名誉を傷つけられた際に開示請求などを請け負う「SNS法務」を自身の専門にしようと決めた。「デジタルネイティブ世代であることが強みになる。SNSに触れてきた時間が違う。何回スマホ中毒になったことか!」

 一方で、エリートコースから外れたことを受け入れられない自分もいた。努力して「社会的に評価される方」を選んできた。それがかっこいいと思っていた。「でも、社会的な評価ってなんだろう。追い求めてきたものは、空っぽだった」。自分は何に価値を感じるのか、何をやりたいのか、探すようになっていた。

弁護士×SNS

 ある日、交際していた男性と結婚について話し合う機会があった。「私が苗字を変えなくちゃいけないの?」パートナーの苗字を名乗ることに抵抗感があったが、理由をうまく説明できなかった。そんな時に思い出したのが、学生時代に読んだ、夫婦の氏にまつわる最高裁判決だ。夫婦同姓は婚姻の平等を定めた憲法24条に反すると訴えた裁判官の意見をパートナーに説明すると、感情的にならずお互いの意見を交換できた。「『選択的夫婦別姓』というと難しく聞こえるけど、パートナーと価値観をすり合わせる話だったんだ」。次第に、「法律は、私たちの生活の話なんだ。世の中では難しく捉えられすぎているのかも」と考えるようになった。

 そんな経験や思いをブログサイト「note」につづっていった。「悩んでいたけど救われた」「共感する」という声が次々届いた。自分の中で何かがぴたりと噛み合った。法律で、誰かの力になれた実感があった。26年からはYouTubeでも発信を始めた。「いずれは『法律コラム』を執筆したり、メディアに出演したりしていきたい。目立ちたがり屋だし!」とはにかむ。

 同年春からは、弁護士の先輩が運営する法律事務所に所属することになった。独立して2年で、これまで50社ほどの企業、10人以上のインフルエンサーの法務を担当し、行ってきた開示請求は約20件に上る。また、東京弁護士会の「法曹養成センター」という委員会に所属し、大学や司法試験予備校で法律の知識を伝える講義を担当している。

 「法律は日常をちょっと良くするための道具なのだと、みんなに知ってほしい」と力をこめる。参考書と向き合っているうちに流れ着いた「法律」の世界。その面白さを伝えることに、きらりと輝く価値を見つけた。

 (しょうじ・まき)1998年生まれ。宮城県仙台市青葉区出身で、現在は東京都在住。東京弁護士会所属で、弁護士登録番号は63339。法律や日常についてつづったエッセイはnote(https://note.com/iwashi03)へ。問い合わせは弁護士法人トリニティ法律事務所(https://trinty-law.com)まで。

(2026年8月21日 写真と文・柏このか)